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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)183号 判決

上告人

法務大臣

長尾立子

右指定代理人

増井和男

外一五名

被上告人

王虹

右訴訟代理人弁護士

梓沢和幸

木本三郎

斎藤豊

平岡高志

紙子達子

阿部敏明

石田武臣

山田正記

伊藤重勝

野々山哲朗

村田敏

山根祥利

田島純蔵

清水聡

堀合辰夫

野田房嗣

村上徹

戸井川岩夫

長谷川健

篠塚力

伊藤和夫

小山達也

釜井英法

秀嶋ゆかり

大橋毅

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人増井和夫、同鈴木健太、同河村吉晃、同佐村浩之、同石川利夫、同寳金敏明、同古江頼隆、同松村玲子、同藤崎清、同坂中英徳、同黒田一博、同沖貴文、同清水洋樹、同三島孝雄、同佐藤義紀、同梅原操の上告理由について

一  原審の適法に確定した事実関係及び記録上明らかな被上告人の在留経過の概要は、以下のとおりである。

1  被上告人は、中国の国籍を有する者であるが、昭和六〇年九月一七日、日本国籍を有する高橋淑子と婚姻し、昭和六一年一〇月二七日、出入国管理及び難民認定法(平成元年法律第七九号による改正前のもの)四条一項一六号、出入国管理及び難民認定法施行規則(平成二年法務省令第一五号による改正前のもの)二条一号所定の「日本人の配偶者又は子」の在留資格をもって本邦に上陸を許可された。

2  被上告人は、本邦上陸後しばらくの間、淑子方に同居していたが、その後、同女と不仲になり、昭和六二年四月ころ、淑子方を出て別居するようになった。

3  被上告人は、右別居後も、「日本人の配偶者又は子」の在留資格により在留期間を一年とする数次の更新許可を受けて本邦に滞在していたが、平成二年一月四日付けでされた在留期間更新許可は、出国準備期間として平成元年一〇月二八日から平成二年一月二七日までの三箇月間在留期間を更新するというものであり、同年一月一九日付けでされたそれも、出国準備期間として同月二八日から四月二七日までの三箇月間在留期間を更新するというものであった。さらに、同年七月三〇日には、同年四月二八日から七月二七日までの三箇月の在留期間の更新許可と同時に、被上告人の在留資格を前記改正後の出入国管理及び難民認定法別表第一の三所定の「短期滞在」とし、在留期間を同月二八日から一〇月二五日までの九〇日とする在留資格変更許可がされた。

4  淑子は、平成二年八月二三日、被上告人との間の婚姻無効確認訴訟を提起し、同年一二月二六日、右婚姻の無効を確認する第一審判決がされたが、被上告人は、右判決に対し控訴して争い、平成三年一〇月二二日、右第一審判決を取り消し、淑子の請求を棄却する控訴審判決がされ、これが確定した。

5  被上告人は、右訴訟が係属中である平成三年一月一〇日と同年四月一六日に、右訴訟が係属中であることを理由に「短期滞在」の在留資格による在留期間の更新申請を行い、各申請日にその許可を受けて本邦における在留を継続してきたが、右四月一六日付けの許可に係る在留期間が同年七月二二日で満了することになるため、同月六日、右在留期間満了後の在留期間の更新申請をしたところ、上告人は、被上告人の右申請に対し、右訴訟の控訴審判決が確定した後である平成四年二月一九日に至り、これを不許可とする本件処分を行った。

6  淑子は、平成四年四月一七日、被上告人を相手方として離婚請求訴訟を提起し、右訴訟は、原審口頭弁論終結時には東京地方裁判所に係属中であった。

二  「短期滞在」の在留資格で本邦に在留する外国人から在留期間の更新申請がされた場合において、上告人は、通常であれば、当該外国人につき、「短期滞在」の在留資格に対応する出入国管理及び難民認定法別表第一の三下欄の活動を引き続き行わせることを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかを判断すれば足り、他の在留資格に対応する活動を行わせることを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかについて考慮する必要のないことは、一応所論のとおりである。

しかし、本件については、直ちに所論のように解することはできない。前記事実関係及び原判決の事実摘示に表われた当事者の主張その他記録上明らかな在留資格の変更許可に係る審理上の諸経過によれば、被上告人は、「日本人の配偶者又は子」の在留資格(ただし、前記改正に伴い、平成二年六月一日以降は、右改正後の出入国管理及び難民認定法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格によって本邦に在留するものとみなされた)をもって本邦における在留を継続してきていたが、上告人は、同年七月三〇日、被上告人と淑子とが長期間にわたり別居していたことなどから、被上告人の本邦における活動は、もはや日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当しないとの判断の下に、被上告人の意に反して、その在留資格を同法別表第一の三所定の「短期滞在」に変更する旨の申請ありとして取り扱い、これを許可する旨の処分をし、これにより、被上告人が、「日本人の配偶者等」の在留資格による在留期間の更新を申請する機会を失わせたものと判断されるのである。しかも、本件処分時においては、被上告人と淑子との婚姻関係が有効であることが判決によって確定していた上、被上告人は、その後に淑子から提起された離婚請求訴訟についても応訴するなどしていたことからもうかがわれるように、被上告人の活動は、日本人の配偶者の身分を有するものとしての活動に該当するとみることができないものではない。そうであれば、右在留資格変更許可処分の効力いかんはさておくとしても、少なくとも、被上告人の在留資格が「短期滞在」に変更されるに至った右経緯にかんがみれば、上告人は、信義則上、「短期滞在」の在留資格による被上告人の在留期間の更新を許可した上で、被上告人に対し、「日本人の配偶者等」への在留資格の変更申請をして被上告人が「日本人の配偶者等」の在留資格に属する活動を引き続き行うのを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかにつき公権的判断を受ける機会を与えることを要したものというべきである。

三 以上によれば、被上告人が平成三年七月六日にした在留期間の更新申請に対し、これを不許可とした本件処分は、右のような経緯を考慮していない点において、上告人がその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるとの評価を免れず、本件処分を違法とした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人増井和夫、同鈴木健太、同河村吉晃、同佐村浩之、同石川利夫、同寳金敏明、同古江頼隆、同松村玲子、同藤崎清、同坂中英徳、同黒田一博、同沖貴文、同清水洋樹、同三島孝雄、同佐藤義紀、同梅原操の上告理由

〈省略〉

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